黒部五郎岳登山

年月2006年7月
期間二泊三日
登った山北ノ俣岳 (2,661m)黒部五郎岳(2,640m)
行程行き上野(夜行列車)富山(バス)折立
登山・折立(1:00)三角点(0:55)五光岩ベンチ(0:35)太郎平小屋(1:35)北ノ俣岳(0:45)中俣乗越(1:05)黒部五郎岳(0:30)黒部カール<泊>
・黒部カール(4:30)太郎平小屋
・太郎平小屋(2:30)折立
帰り折立(車)富山(列車)越後湯沢(列車)東京(列車)新横浜
タイム12時間55分(黒部五郎岳まで・コースタイム17時間10分)
同行者なし
宿泊
天候
温泉
コメント 今回は前から予定していた裏銀座縦走。。だったのですが、結果的には大変な経験をしました。

 寝台特急北陸号で富山着、そこから直通バスで2時間、折立は既に雨模様でした。八年前に四日連続降られた縦走を思い出しつつ、8時に登山開始。折立から太郎平までの道は一昨年の薬師岳以来二回目ですが、天候にかかわらずほぼ同じタイム、2時間半で到着しました。
 11時に小屋を出発し、黒部五郎岳を目指します。今回の予定では、初日に黒部五郎小屋泊、二日目に鷲羽・水晶・赤牛を踏んで読売新道を下るというものでしたから、もともとが随分チャレンジングなスケジュールです。北ノ俣岳までに1つ、その先に3つ雪渓が残っていましたが、黒部五郎岳の山頂には15:15。大雨の中、ここまではまずまずでした。このペースならば暗くなる前に黒部五郎小屋に着けるなと思ったのですが、小屋への2つの道のうち、一般的と言われる黒部カール経由のルートを選んだのは失敗でした。
 この日は悪天で視界が悪かったので、迷いやすいカールではなく、稜線ルートの方を選択すべきだったようです。常に対岸の見えない状態でコンパス頼りに雪渓を突き進んだ結果、6つ目の雪渓で対岸の道を発見できず、戻り方も間違えて、ここで1時間近く時間をロスしてしまいました。更に8つ目の雪渓は相当大きく、いくら探しても対岸の道らしきものが見当たりません。ここでも1時間近く時間を浪費したので、時間は17:30を回ってしまい、日没が近づいてきたので、相当焦ってきました。
 仮にここをクリアできたとしても、その先どれだけ雪渓があるかは分かりませんし、無事進める保証もないです。稜線ルートを通っていれば2時間弱で小屋に辿りつけていたはずですから、引き返すことに決めました。日没は19時前後でしょうから、そこまでにできる限り稜線のルートをこなしておけば、ヘッドランプを頼りに小屋までたどり着けるだろうと思ったわけです。
 ただ、この目論見も早々に打ち砕かれました。行きの記憶を頼りに雪渓を引き返してきたのですが、最後の雪渓から黒部五郎への登りにへ取り付く部分がどうしても見つからないのです。雪渓は真っ直ぐ渡ったはずなのに、対岸に道がありません。二、三回雪渓を戻ってはコンパスで北に真っ直ぐ歩くのを繰り返したのですが、ダメでした。本当に「ビバークするしかない」と思ったのはこのときです。

 ビバークすると言っても、私はツェルトなど持っていませんし、山小屋泊まりのため、火器も一切持参していませんでした。しかも、ここは標高は2700m、天候は雨、疲労凍死でもしたら洒落になりません。
 とりあえず、雨風を凌げる場所を探しました。幸い、一番最後の雪渓まで戻ってきていたので、対岸は黒部五郎の斜面の一部で、岩場がゴロゴロしている場所がありました。その中を捜していくうち、巨大な石の下に何とか体一つ押し込めそうな場所を見つけました。足を奥に折り曲げて入ってみると、何とか石の下に頭まで収まりそうです。そこで、ここに入ることに決め、ちょっと雨がやんだ瞬間に汗だくの服を脱いで、持っているもの全て(ジャンパーまで4着)をレインコートの下に重ね着しました。そのまま日が暮れ、非常食料として持っていたカロリーメイトをかじって岩の下に潜りこんだのでした。
 幸い、岩場は黒部五郎の北面でしたし、雪渓から数十m上がったところでしたので、強い風は避けられました。予想外だったのは、その日は記録的な大雨の日だったので、岩場の中にまで岩を伝って雨が流れ込んできたことです。折角着替えた服にまで雨が染み込んできて明らかに寒くなってきたので、方針を変更して岩に頭から潜りこみました。足は完全には納まりませんが、上半身がずぶぬれになるよりマシだと思ったのです。奥は狭くて身動きもままなりませんが、何とか雨で服が濡れるのは避けられました。
 そうは言っても、この状態ではなかなか眠れるものではありません。幸い、傘も持っていて、外に出ている間には随分役に立ったのですが(体温が下がると分かっていても、この状態では精神安定のための一服は欠かせません。。)、時折吹く物凄い風のために、とうとう軸が曲がってしまいました。うとうととしたものの、結局殆ど眠れないまま4時まで過ごしました。相変わらずの大雨ですが、4時半になると結構明るくなってきます。予想よりガスは少なく、雪渓の対岸もしっかり望めます。この状態であれば、もしかしたら迷うことはなかったかもなぁ、と思いながら、石の下から這い出して帰り道を探しはじめました。

 最後の雪渓からの取り付きを発見するにはそれでも1時間かかりました。というのは、行きは普通に下りてきたつもりでも、登山道自体が雪で覆われていたため、反対側から来ると全く登山道に見えなかったからです。登山道でないところを20mほど這い上がって、漸くそれに気付いた次第。
 元々、二日目も長丁場を予定していましたから、殆ど寝ていない状態で先に進むことはできません。やむなく、太郎平への道を引き返すことにしました。大雨のために、道の7割が水没して川になっていました。途中何度か眠さでふらつきながらも、北ノ俣岳を経由して、10:15に太郎平小屋着。このまま一日早く下山して、富山で風呂に入りたいという気持ちになっていたのですが、悪いことは重なるもので、昨日からの大雨で有峰林道が通行止めになっており、バスも出ていないと聞かされました(降雨量が一定を超えると、通行止になる林道は多いです)。
 やむなく、その日は太郎平小屋泊。ホットコーヒーの何とうまかったことか。布団に入って夕食まで泥のように眠りました。

 太郎平小屋は折立まで3時間弱で下れますが、それ以外の下山口は実質ありません。飛越トンネルまで5時間半、それ以外の室堂、平、奥黒部、高瀬ダム、新穂高はいずれも一日半以上かかる距離です。飛越トンネルも有峰林道ですから、有峰林道が閉鎖されると、実質下山できなくなります。明日も閉鎖だとどうなるんだろうと思っていましたが、結果は、「有峰林道小見線は土砂崩れのため通行止めでバスも運休、ただし、有峰林道東谷線は開けるので、下山者はこちらを利用してください」というものでした。これによると、富山方面へは行けないが、岐阜方面にはタクシーを呼べば行けるということになります。
 岐阜のタクシーを呼んでいる組があったので、お願いして一緒に乗せてもらうことにし、彼らとタイミングを合わせて下山しました。やはり7割水没してしまった登山道を下り、9時過ぎには折立着。準備して10時に出発。タクシーは有峰ダムの北から西側を回り、岐阜方面へ走ります。約1時間半で到着したのが、高山線猪谷駅。私は充分認識していなかったのですが、高山線というのは猪谷駅より南は2年前の秋の大雨以来不通になっています。バスの本数を考えると名古屋方面に出るより、富山に戻った方がいいようです。そこで、全員一致で富山までタクシーで戻ることになりました。結果、タクシー2台で7万円(1人8,750円)大雨時の折立からの脱出費用は意外と高くつきました。
 さらに三連休の最終日で、金沢発越後湯沢行きの特急はくたかは150%を超える乗車率で富山から勿論座れず、2時間立ちっぱなしでした。最後まで大変な山行でした。

 黒部五郎は登れたものの、視界不良とはいえ、雪渓をこなせなかったのは我ながらショックです。鷲羽と赤牛まで行けなかったのは非常に心残りなので、近く高瀬ダム側からリベンジを果たしたいと考えています(折立の道はまたしばらく登りたくありません)。